だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
『もっし〜?』

電話に出たのは聞き覚えのない、若い女性の声だった。
正確には、酒やけしたような掠れた声を持ち、舌足らずに喋る女。
恐らく今、煙草を銜えているに違いない。

『誰?』

咄嗟に出たのは、自分でもぞっとするほど低い声。
イラついているのが、自分で分かる。

『あー、このケータイの持ち主?
さっきの小学生の親?
これ、忘れ物なの。そう、うちの店で預かってるんだ』

こっちが無言であるにも関わらず、まるで相槌があるかのように喋り続ける間の取り方に、やや感心してしまう。

店の名前と場所、ついでにその担当者と名乗る女性の名前を聞き出して電話を切る。
考えるより前に、小川 準(おがわじゅん)に電話を掛けていた。

彼はうちの組員ではない。
それでも俺を慕ってくるちょっと変わった、でも、こういうときこそ使い勝手の良い男だった。
年は、恐らく俺とあまり変わらない。

人と接するときに相手の年齢を気にしないように癖づけているので、正確なところはよくわからないのだが。

小川に電話の回収をはじめとした幾つかの指示を出し終える頃、車は総本部でもある我が邸へと到着した。
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