だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
母が一人でそこに居た。

『お帰り、大雅』

『ただいま帰りました。話は清水から聞きました』

焦りが出てないか、幾度も幾度も確認しなければならない自分がもどかしい。

『では、私は出かけて来るわね』

母は涼しい口調で言う。

『どちらに?』

『あら、都さんの学校よ』

あまりにも当然のように言うので、言葉に詰まる。
母が都さんの学校に出掛けたことなんて、見たことがない。

『俺が……』

そう言い出すのも計算済みだったのだろう。
くすり、と。
紅に彩られた唇が笑う。

『駄目よ。
いくら優等生で有名な都さんでも、今は学校にとって問題児だわ。
そうでしょう?
そんな時、あなたや紫馬が行って御覧なさい。
偏見の目で見られることになるわよ、分かるでしょう?』

子供を――実際俺は彼女の子供ではあるのだが――諭す、丁寧な言い回しではあるが、反論を挟み込めない強い口調。

俺は息を呑んだ。
確かに俺が何をどう頑張ったって、彼女の父親に値する貫禄を今すぐつけるのは到底無理だ。……実の親の紫馬さんさえ、一般的に見れば小学六年生の父親としては若すぎる。

『分かりました。お願いします』

頭を下げるしか選択肢がないことが、もどかしかった。
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