だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
髪を乾かし終わったお兄ちゃんが、ドライヤーを切る。

部屋に帰ろうと立ち上がったわたしをその胸に抱き寄せ、乾かしたばかりの髪の毛に唇を落とした。

そのまま、ぎゅっと後ろから抱きしめてくれる。
力加減を間違えたかのように、強く。

「今日、何があったか話してくれない?
都さんの力になりたいんだ」

ガラスを溶かしたみたいな、熱い声。
丁寧な言い回しを忘れてしまったかのような、口調。
それが囁くように耳に注ぎ込まれて、わたしの心臓がずきりと甘く痛んだ。

「だってっ」

わたしは弾かれたように顔をあげた。

どうして?
つい先日、簡単にわたしを遠くに突き放したばっかりなのに。

なんで、今度はそんなに優しいことを言うの?

心がブレて、どうしていいのか分からなくなっちゃうじゃない。


優しさを溶かした瞳って、人里離れた田舎で見た星空にそっくりなのね。
とても、澄んでいてわたしはそれを見ただけで泣きそうになっちゃう。

お兄ちゃんは、涙で瞳を潤ませて言葉に詰まったわたしの髪の毛を、大切な宝石でも扱うかのようにそっと、そおっと撫でた。


そして、陶器を扱うかのようにゆっくりとわたしの頬に手のひらを当てる。

「それとも、こんなお兄ちゃんじゃ頼りないかな?」
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