だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
……ずきゅん、と。

何かに心臓が射抜かれた音が確かに聞こえた。

お兄ちゃんがあまりにも切なさを溜め込んだような声でそんなこと囁くのがいけないんだわ。
そう言いたいのに、金縛りにでもあったかのように唇が動かない。

お兄ちゃんは、わたしの唇に触れるだけのキスをして。
もう一度、乱暴とも形容できるような仕草で強くわたしを抱き寄せた。


「どうしても、俺じゃ駄目だったら。
紫馬さんでも、清水でも、都さんが信頼できるほかの誰でも構わない。
誰かに相談するって約束してくれるまで、この手は放さない」

厳粛な決意表明のように、淡々と真剣に。
お兄ちゃんが言葉を零す。

わたしに向かってお兄ちゃんが「俺」っていうこと自体珍しくて。
それが、いつもと違う雰囲気すら醸し出しているみたいで。


うん。
わたし、子供だから雰囲気に飲まれたってことにしてもらっても、いいかな?


いいよね。


折角ずっと、堪(こら)えていたのに。
瞳に溜まっていた涙が、堰を切ったように溢れ出してしまった。


溢れた涙は嗚咽を誘う。
嗚咽はわたしの呼吸を乱し。

気づけば、お兄ちゃんの腕の中でわたしは。
小さな子供のように号泣するという失態をさらしてしまっていた。
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