だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
そうだ!
わたしはアツアツのチョコレートが絡んだイチゴを味わいながら、谷田陸の言葉を思い出す。

「清水さん、ありがとう」

笑顔で。
精一杯の感謝の気持ちを込めて言ってみた。

「……都さん?」

ほとんど、初めてと言ってもいいくらい。
清水の……清水さんのポーカーフェイスが、驚きの色に染まっていくのをわたしはつぶさに見つめていた。
眼鏡の奥、形の良い瞳が大きく見開かれている。

「なぁに?」

あまりにも驚くから、こっちが決まり悪くなってしまうじゃない。

「何があったんですか?」

うーん。
酷い。
真顔で、問うほどのことかしら?

「な、何もないわよ。
昨日、ほら。
谷田陸に逢ったでしょう?
あの後で言われたのよ。大人を呼び捨てするのは酷いんじゃないかって。
普通じゃないみたいに言うから、さ。
わたしも普通を真似っこしてみたの。……変?」

器用にクレープに生クリームとフルーツを挟み、チョコレートをかけて巻きながら清水……さんが口許を緩ませる。(ああん、突然「さん」付けするのって、案外難しいわね。)

「とんでもない。変じゃないですよ。
だけど、今までの呼び方で全く構いませんよ」

出来たてのクレープを、お皿において渡しながらようやく清水はいつものペースを取り戻したみたい。

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