だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
「今朝、教室で何があったんですか?」

目の前の食材があらかたなくなった頃、お兄ちゃんがひどく躊躇いがちに口を開いた。

ぎくり、と。
指が凍る。

それでも、わたしは説明しようと記憶を辿った。
フラッシュバックのように、頭の中に黒板の絵が浮かび上がってくる。

ご丁寧にカラフルに描かれた二つの傘。
それぞれの、柄の隣に並ぶ二人の名前。

青山太陽/八色都

谷田陸/八色都

……何よ、あれ。

思い出すだけで腹が立つ。
っていうか、頭が真っ白になる。

あんなことして、何だって言うのよ?
何が楽しいの?

耳につく笑い声。
冷やかしの声。

ひゅうひゅう、という。パパと比べたらまるで下手な口笛の音。

そこに、一人で立ちすくむ、笑えないわたし。

足の指から頭の先まで、瞬間冷凍された気分で。
凍った心はあっという間にばらばらに砕け散っていった。

「……都さん、すみません。
思い出させるようなことを言って」

お兄ちゃんは囁くように言うと、わたしの頭をくしゃりと撫でる。
頬にお兄ちゃんの指が触れるまで、泣いていることにも気づかなかった。
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