水中鉄道の夜-始発駅-
★本編
 私、藤沢 枝実は、証券会社の店頭レディー。
 店頭での接客で、お客様の相談や、貯金などをオススメするのがお仕事。

 三軒茶屋のマンションから東急新玉川・田園都市線に乗って、青葉台駅で降りてターミナルからすぐそばに建つビルに、私の職場がある。
 店は小さいけど、顧客数はかなりのもので、結構てんてこ舞いなぐらい忙しい。
 とても大変だけど、やりがいのあるお仕事にかまけているうちに、気付いてみれば27歳。
 しかも彼氏いない歴も27年の、ベテランサブリーダーとなってしまった。

 年齢の高い男性が顧客ばかりである事と、同じ支店にいる営業マンなんて、目の前で上司に怒られているのを見てしまえば、哀愁漂う背中が痛ましいぐらいにしか思わなくなってしまうもの。
 そんなこんなで、ただでさえチャンスが少ないと言うのに・・・、私ってば夢を追いかけすぎてしまったようだった。

 見合い結婚して、お互い空気のような関係の両親を見て育った私は、身を焦がすような大恋愛の相手と恋愛結婚するんだと意気込んでいたら、いつの間にか27歳になったしまったと言うわけ・・・。
 月日の流れは無情にも早いものだったのね・・・。
 などと思いつつ、持っている携帯を握りなおし、ため息をついた。
 電話の向こうで泣いている気配に、これは汚いと思いつつも、はやり両親は愛しているのでむげにも出来ず、ひたすらに困っていた。

「お願いだから、泣かないでよ」
『だってオマエ、いつまでも仕事ばっかりでこっちに帰ってこないじゃないの。早く結婚して孫の顔でも見せて欲しいと思うのが親ってもんでしょう?』

 結婚しても孫が出来なかったらどうすんの?と、心の中でツッコミを入れつつ、いつもと同じ会話を繰り返す。

「そりゃあ、そうゆう相手がいれば私だって結婚したいわよ」
『だから1度こっちに帰ってきて、見合いしなさいって言っているでしょう』
「お見合いなんて絶対に嫌!」
『またそんな我侭言って、大恋愛なんてそう簡単にないから、ドラマとかになるんでしょうが』
「ぐっ・・・」

 お母様、痛い所をざっくりと・・・。

< 2 / 14 >

この作品をシェア

pagetop