水中鉄道の夜-始発駅-
『とにかく帰っていらっしゃい。お見合いがどんなものか経験したっていいでしょう?』
「そう言うけど、本当に断われるの?」
『ちゃんとお断りすれば大丈夫なはずよ。とにかく、直江おばさんが家に足を運ばれる度にお話をお断りして、お母さん、申し訳ないと思っているんだから、1度だけでもお見合いしてちょうだい』

 直江おばさんは、村のお見合いおばさん。
 行ける所ならどんな所でも行って、お見合い話を持ってくる。
 ウチの村で結婚適齢期なのに、結婚していないのは私だけなので、しつこいくらいお見合いを持ってくるらしい。
 前に家に帰ってきたときは、お見合い写真のその量の多さにタジタジになってしまったほどだ。
 今回は手元に見合い写真を送って来たほどの熱の入りよう。
 しかも、昔で言う3高のオトコだと言うことで、証券会社務めの私にはピッタリだとか、強引に押し進めてきたらしい。
 写真を見たけれど、大人しそうで平凡そうな人・・・。

 別に平凡なのが悪いわけじゃない、でも、間違ってもこの人は愛のささやきなどしなさそうに見えるのが問題なのだ。

『エッちゃん』

 いつもならちゃんと「枝実」って呼ぶのだけど、本当にキテいる時は幼少の呼び方になる母に、私はガクリと肩を落とした。

「わかりました・・・。有給をとって一度家に帰ります・・・」

 しぶしぶ諦めモードで結局家に帰る事を了承し、見合いまでするはめになってしまった。

 結婚が嫌なんじゃない。
 これでも幼い時からの夢はお嫁さんになる事だし、愛読書はハーレクイーンロマンス。
 燃える様な恋に憧れ、いつかそんなステキな人に出会える事を信じてここで頑張ってきたつもり・・・・・・だったんだけどなぁ。
 現実ってキビシイのよね。
 運命の相手って簡単に会えるものじゃないの?
 小指から繋がっている赤い糸を見る方法があるのなら、絶対に試しちゃうんだけどな。
 ため息をつきつつ、明日の仕事の為に就寝する私だった。
 どうして運命の相手が現れてくれないのかと、ちょこっとマクラを濡らしつつ、夢も見る事もなく眠りの底に落ちていった・・・。

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