水中鉄道の夜-始発駅-
 爽やかな朝は、私の気持ちとはお構いなしにやって来る。
 無情にも、忙しい1日が始まるのだ。

 急いで出勤の支度をして家を出て、駅に向かう途中で偶然会った同期の子と会社の不満を話しながら駅で別れると、ホームのいつも場所で電車を待っていた。

 いつもの時間、いつもの電車、いつも乗る車両。
 物事はぴっちり主義の私にとって、同じ事をするのは苦痛ではなく、ごく当たり前の事だった。

 でも、それだけじゃない事に私は気付いていた。

 たまプラーザ駅から乗ってくる高校生に気付いたのはいつ頃からだろうか・・・。

 私と同じ電車の同じ車両に乗ってくる高校生。
 都心方面ではない為、いつも車内は空いていて気付きやすいって事もあったんだけど、その男の子が、顔付きとかは全然似ていないのに、纏う雰囲気が高校の時のアコガレの先輩に似ているのに気付いた時から、こっそり盗み見をしたりするようになった。

 男の人が女子高生の制服を見てそそるって言うのが、少しわかるような気がする。
 男子高校生の制服姿もなかなかよね。

 なんて言ってもその男の子は、特に容姿の整い具合が羨ましいほどいい。

 時たま一緒の学校の女子生徒であろう女の子が、『トール先輩だぁ?』とか、『○○さんと別れて、今度は××さんと付き合い出したんだって・・・』などと、週刊誌のようなネタ言っているのを何度か聞いたことがあって、やっぱりモテるみたい。

 自分の学生生活を振り返っても、そんな華やかな話はまったく記憶に無かった。

 私も、1度でもいいからアコガレの先輩とデートしてみたかったな・・・。

 彼氏いない歴27年の私は、デートしたことない暦も27年のちょっと寂しい人生。
 これで家に帰った時、直江おばさんとお母さんの説得に負けて、お見合いした相手と結婚するハメになったら惨めだよね。

 そう考え、さらに憂鬱になった気持ちのまま青葉台駅で下車する。

 目の前を歩くトール君は、青葉台のバスターミナルから出ている、お坊ちゃん高校行きのバス停へ向かって歩いて行く。

 私は、そのまま駅前の交差点を渡って、ちょこっと歩くだけで会社に到着。

 脇の階段から上に上がり、3階の更衣室で着替えて2階の自分のディスクに就くと、今日の仕事をまとめ出した。

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