水中鉄道の夜-始発駅-
「で?」

 予想に反して、私の隣の場所が沈む。
 隣を見れば、彼が座って私の方を見ていた。

「肉体労働ナシで、夕食付き、一応法に触れるような事も一切ナシの時給千円のバイトなんでしょう? どんなバイトなんです?」

 初めて聞く彼の声は、結構ハスキーだった。

 高校生などまだ子供だと思っていたけれど、整った顔を近づけられてドキリと心臓が跳ね上がる。

「私ね、近いうち無理やり見合いさせられるの。いい年して今まで彼氏も出来た事なくってね。君の事は毎朝同じ電車に乗っているから顔は知っているし、私が憧れていた先輩によく似ているの。だから、君に私が高校の時にしたかったようなデートに少し付き合ってもらえないかと思って・・・。ただ単に付き合わせるのも悪いし、バイトとしてでもいいかなと思ったんだけど」
「・・・・・・」

 黙りこんで考えている彼に何も言えず、落ち着かない気分で彼が再び口を開くのを待った。

 長い沈黙に、ドキドキと心臓が早くなっていく。
 ダメならダメでいいから、早く何か言ってよ。

 そう口に出したくなった時、彼がこちらに視線を流す。

「・・・いいですよ」

 一瞬、聞き間違えかと思うほど簡潔な言葉に、反応が遅れる。

「え? いいの?」
「まあ、ヒマだし、高校の時にしたかったようなデートなんでしょう? それだったら変な事にはなりそうにないしね」
「はぁ・・・」

 頭がいいんだか何だか・・・・。

 いや、頭はもちろんいいんでしょう。
 あの高校に通っているぐらいですから。
 容姿も良く、お金持ちで、頭脳明晰だなんて、羨ましい限りです。

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