水中鉄道の夜-始発駅-
 まず、渋谷の映画館に入り、何を見るのかを決める。

「トール君は何か見たいのはある?」
「いいえ、別にありません。映画は何でも好きですよ」
「そう、じゃあ、あれは?」

 私の指差したのは、ハリーピッター秘密の部屋。

「・・・いいですけど、これ、2作品目ですよ。1作品目を見ました?」
「見た!」

 原作ファンの私が見ないわけない。
 ええ、忙しかったので、レイトショーで行きましたよ。

 主人公の男の子がまたイメージピッタリで良かった。

 今回も同じメンバーで演じているし、映画って1人で観るものじゃないじゃない?
 さすがにこの年で友達にこれに誘うわけにはいかず、DVDが出るまで待つのかと思っていたのよね。

「主人公のダニエル君がすごく可愛かったのっ」

 私よりずっと背の高いトール君を見上げている私は、多分子供みたいに目をキラキラさせていたんだろう。

 トール君の瞳があきれモードになっている。

「・・・枝実サンってショタ?」
「ショタ? ショタって何?」

 トール君の言っている事が判らなかったので、聞き返したのだけど、『もう、いいです』って言われてしまった。

「さ、早く券を買ってください」
「あ、うん・・・」

 投げやり気に言われて、何だか納得出来なかったけど、他にも同じ映画を見ようと言っている人とかいて、取りあえずその問題は置いておく事にする。

「大人2枚」

 そう言ってカバンからサイフを出そうとしたら、いきなりトール君が割り込んできた。

「すみません、大人2枚じゃなくて、大人1枚、学生1枚です」

 トール君は、自分のブレザーの内ポケットから生徒手帳を出して受付のお姉さんに見せる。

「あ、ありがとう」
「どういたしまして」

 どう言ったらいいのか判らなくて、取りあえずお礼を言ったのだけど、トール君はにっこり笑って返事をした。
 その少し大人っぽい笑顔にドキリとしてしまう。

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