【短】Eqeal
「直樹…知ってたんだ?」


ふーっと息を吐いた美羽。


「あたしがオーケストラ目指してたって聞いてびっくりした?」


「かなり」


俺の答えに、だよねって寂しそうに笑った美羽。




「生まれたときから、音楽はずっと一番近くにあった。お父さんの背中見て、将来は絶対オケだって思ってたもん」


美羽が音楽好きなことぐらい、俺にだって昔から伝わってる。


「でもね、あるとき急にお父さんはスランプになっちゃって…仕事もなくなって、荒れちゃったの」


多喜音矢ほどの人でも、スランプに陥ったりするんだ…。


「それが原因でお母さんとケンカが絶えなくて、ついには離婚。そのときかな、音楽では生きていけないって思ったのは」


若林先生から聞いた言葉。

美羽が口にすると、また違う重みがある。


分かってるはずなのに、胸が痛む。
< 37 / 81 >

この作品をシェア

pagetop