天使の林檎
 淡々と述べる友紀に感心していると、突然名前を呼ばれた。

「桃!」

 さっき秀ちゃんは友達と帰っていったし、廊下に視線を向けると智が入り口に立っていた。

「あ、智!」
「帰れそう?」
「うん!」

 私は頷いてカバンを掴み、友紀に手を振ってバイバイすると、智の元へ小走りに向かう。

「お待たせ!」

 そう言って智の前に立ったけど、智は動かなかった。

 視線の先は、さっき私がいた場所。
 そこにはまだ友紀がいる。

 嫌な予感に、もう一度名前を呼ぶ。

「智?」
「あ、ごめん。行こうか?」
「・・・うん」

 落ち着かない気分のまま教室を後にして、智と並んで廊下を歩く。

「な、さっきの彼女、松川さん?」
「そうだよ。智、知ってるの?」

 顔を上げて智と視線を合わせると、なんとなく顔が赤い気がする。

「何度か見たことある。すごい美人だよな。何? 桃、友達になったの?」
「うん、席が後ろで声をかけられたの」
「へぇ~」

 智はすごく友紀に興味があるみたいだ。
 まだ『Laik』を抜けきっていない私は、このことで嫉妬することはないけど、それでも気にはなる。

 友紀は美少女だから、気になるのは仕方ないと思う。
 でも告白してきたのは智の方で、まだ付き合ったばかりだし、簡単に心変わりするようには思えない。

 そう思っても、モヤモヤっとした気持ちは晴れず、そのまま智とうちの近くまで一緒に帰った。

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