天使の林檎
 まともに活動出来たのは嬉しいけど、すごく雰囲気が悪かった。

 しかも、男子部員だけ30分も早く活動が終わりになって、諏訪君と一緒に帰ろうと思っていた女子はすごく落胆しただろう。
 まあ、活動出来なかった3日間のことを考えれば、当然の処置だとは思うけど。

 前は、部活が終わった瞬間、後片付けもほったらかしにして、一緒に帰る為にすさまじい争奪戦が繰り広げられる。
 あの時は諏訪君を巡って、先輩と後輩との溝はどんどん広がる一方だった。
 
 礼儀正しく、目上に対し敬意を払う諏訪君は、先輩相手ハッキリ断わることも出来ずに困っていた。

 男子の終了時間を変えたことで、諏訪君が目的で入部した子は後片付けもそこそこに皆さっさと帰っていった。
 逆に、ちゃんと絵に興味があって入部した子は最後まできちんと片付けている。

 それで判ったのは、本当に美術部に入部したかった女子はたった2人だということだった。

 一緒にいた部長の盛大なため息が聞こえて、私は苦笑するしかなかった。

「本入部になる時は、どれだけ残るかしらね?」
「残したいんですか?」
「もちろん、どうやって振いにかけるか考えてるわよ。いっそイビリまくったらどうかしら?」

 笹沼部長の言葉にどう反応すればいいか困ってしまう。
 もともと気は強い人だけど、笹沼部長はとても面倒見が良く優しい人なのに、その先輩から『いびる』と言う単語が出てきて驚いた。

「笹沼部長、イジメはダメですよ?」
「しないわよ。諏訪に関われないと判れば勝手に消えていくでしょ」

 ふと、友紀の事が頭に浮かぶ。

 友紀は帰宅部だ。
 だから友紀はどこにも入らないで帰宅部なのかな?

 そう思っていたら呼ばれた。

 声に顔を上げると、今頭に浮かべていた友紀がドアから顔を覗かせている。
 私は部長に断わって、友紀のところへ行った。

「友紀、どうしたの?」
「もう終わる?」
「終わるけど・・・」
「図書室でちょっと調べ物していたの。ね、一緒に帰ろうよ」
「うん! じゃあ、ちょっと待っててね」
「了解♪」

 すぐにキャンバスを準備室に片付ける。
 そしてカバンを持ってみんなに帰りの挨拶をして、廊下で待っている友紀のところへ行った。

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