天使の林檎
 一緒に諏訪君の作品の前に立つ。

「で、どうしたいの?」
「ここの陰影を何とかしたいんです。もう少しぼかすべきなのか、しっかり書き込むべきかで悩んでしまって・・・」

 諏訪君の作品は、お世辞に言ってもまだまだだ。
 描き始めてまだ半年も経っていないって聞いたけど、基本が緩い。

 もっとデッサンをたくさん描いて、基盤をしっかりしないとダメな気がする。

「ちょっと待って、浜口先生!」

 私は後ろに通りかかった顧問の先生を呼ぶ。

「何だ?」
「私には諏訪君に筆を持たせるにはまだ早いと思うんですが・・・。もっと基本を教え込んだ方がいいと思うんです」
「諏訪に筆を持たせたのは誰だ?」
「上村くんです」

 上村くんはグラフィックデザイナーを目指している同学年の男子部員だ。
 美術部は、アナログ作品を作る人は3分の1ぐらいしかないない。

 私も諏訪君もアナログ派で、上村くんはデジタル派だった。

「上村!」
「はい!」

 パソコンの前に座っていた上村君が呼ばれてこっちに来る。

「何スか?」
「お前、諏訪について指導しているのか?」
「はい。一応・・・」
「そうか」

 先生は上村君の言葉に少し考え込む。
 男子生徒の殆どはデジタル派だ。

 うち、指導するのに適任者となると限られてくる。
 
「よし! 堀口、お前が諏訪の面倒をみてやれ」
「え? 私がですか?」
「そうだ。聞いた話じゃ、諏訪はお前の作品を見て入部を決めたんだろう? ちょうどいいじゃないか。そうしろ」
「・・・はぁ」

 こうして諏訪君の指導を私がすることになった。

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