天使の林檎
 お小遣いをもらえた週の週末は買出しDAY。
 必要な画材はすでに注文してお金も払ってあるが、もうすぐ友紀の誕生日だ。

 私は最寄の駅から3つめの駅にある画材屋さんに来ていた。
 選ぶのに時間がかかると思っていたプレゼントがあっさりと決まってしまい、あとの予定がなくて画材屋さんに来ていたのだ。

 私は目新しいものがないか狭い店内をチェックして歩く。
 自分の絵には必要ない物でも、見ている分なら十分に楽しめる。

 気になる物を手に取ったりして楽しんでいる途中、偶然にも諏訪君を見つけた。

「諏訪君!」
「え?」

 驚いた表情で諏訪君が振り向く。

「あ、堀口先輩、こんにちは」

 礼儀正しく諏訪君が私に挨拶してくる。

「諏訪君も買い物?」
「はい、スケッチブックがもうすぐなくなりそうなので」
「だったら、浜口先生に頼めばいいのに」

 美術の先生でもある浜口先生に頼むと、画材が教員価格で買える。
 こんな所で買うより、結構安く買えるのだ。

「気に入っているスケッチブックがここにしかないんです」

 バイトをしていない貧乏高校生が選択しなければならないのがココ。

 安さを取って使い心地を後回しにするか、使い心地を取ってお財布を少し軽くするか。
 普通の人には違いがわからないだろうが、紙1枚でもメーカーや商品によって質が違う。

 描き心地がいいと、特に集中出来るのだ。

 だから少し困ったように笑う諏訪君の気持ちがわかる。

「先輩はどうしたんですか?」
「友達の誕生日を買いに来たついでに、ひやかしに」
「そうなんですか?」

 私の言葉に、諏訪君がクスクスと笑う。

 諏訪君は礼儀正しく、性格は少し控えめで口数も少ない。
 それが繊細な外見に相応しく見せている。

 あんまり感情的にならず、いつも穏やかに微笑んでいることが多い。
 悪く言えば、喜怒哀楽が乏しいと言うべきだろう。

 私には彼が寂しい人に見えた。

「ね、これから予定ある?」
「え? ・・・いいえありませんけど・・・」
「じゃ、おごってあげるから、お茶しようよ!」

 先輩に対しあまり強く出られない諏訪君を強引に誘い、お気に入りの喫茶店に入った。

< 34 / 49 >

この作品をシェア

pagetop