天使の林檎
「もっとそういうふうに笑えば良いのに」
「え?」

 思ったままを口にしてしまったせいで、諏訪君が戸惑っている。
 一瞬、どうしようかと思ったが、不思議そうな表情の諏訪君を見て正直に話すことにした。

「15歳の男の子がよくするような笑い方」

 私の言っている言葉が理解出来ないのか、諏訪君はますます困惑げな表情になる。

「なんか諏訪君って、天使みたいって言われて、わざと天使に見えるように振る舞っているみたい」
「・・・・・・」
「これはあくまでも私個人の受けた印象だからね! ・・・急に変なこと言ってごめん」
「あ、いいえ・・・」

 すっかりあどけない笑顔が引っ込んでしまって、諏訪君はまた寂しそうな微笑を浮かべる。
 そのことに、少しだけ焦ってしまう。

「私にとって諏訪君は可愛い美術部の後輩だよ。それは見た目が違っていても一緒。諏訪君も内藤君も有田君も同じくらい可愛い後輩だと思ってることを覚えていて?」
「堀口先輩?」
「それに、私は自分より年下は恋愛対象外なの。異性だって思わないから気持ちはずっと変わらないよ」

 それだけ言うと、ウェイトレスさんがオーダーを取りにきたので会話が中断された。

 この後、私は自分の言った言葉に後悔をすることになるんだけど、この時は、諏訪君に自分が誰にでも公平であることをアピールしたかったのだ。

 変わることのない感情を、私は彼に与えたかった。

 でも、変わらない感情なんてない。

 恋はするものじゃないくて落ちるもの。
 そんなキャッチフレーズを私はいずれ実感することになる。

 恋は私の気持ちとは無関係に生まれてしまうのだ。

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