天使の林檎
 大人しくて穏やかな性格の諏訪君は、表情ですら、たいてい緩やかな変化しかみせない。
 だからなのか、時々見せる大きな表情の変化を見せられると笑いがこみ上げてしまう。

「・・・・もしかして持ってないと思ってわざわざ待っててくれたの?」
「あ・・・。だって、今日は雨が降らないって天気予報で行ってたし、傘を持って来てないんじゃないかって思って・・・。僕、大きなビニールを持っていたからそれで傘代わりにはなるんじゃないかと・・・」

 頬を染めて、恥かしそうに戸惑う諏訪君を見て、私はちょっと噴出してしまった。

 だって、諏訪君の手には透明なゴミ袋があったのだ。
 一応、使っていないみたいだったが、傘がないからそれで代用しようと思ったらしい。

「天気予報を信じて、傘持って来なかったんだ?」
「はい・・・」

 小さな声でいたたまれなさそうに答える諏訪君がおかしい。

「折りたたみだから小さいけど入れば?」

 私の言葉に諏訪君が顔を上げる。

「せっかくビニールを持ってるならこうして・・・肩に巻けば傘が小さくてもあんまり濡れないし、ちょうどいいじゃない。袋持ってて良かったね」

 手に持っていたビニールを諏訪君の肩に巻く。
 自分の髪につけていた2つのピンを外して、ブレザーの襟にビニールの端と一緒に挟み込めばイイカンジだった。

「さ、帰ろう!」

 折りたたみ傘をカバーから出して、軒下に出ると傘をポンっと開く。
 水色に白い水玉の柄。

 それを諏訪君の方に差し出すと傘の柄を掴まれた。

「僕が持ちます」
「ありがとう」

 素直に傘の柄を諏訪君に私、雨の中へと一歩踏み出した。

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