天使の林檎
 先輩の言葉を無視出来ない諏訪君は、友紀に言われた通り、ちゃんとお弁当を手に美術室に来た。

 驚いたのは、すぐ後から秀ちゃんが入ってきたことだ。

「何で秀ちゃんがここに?」
「もちろん、呼ばれたから」

 秀ちゃんが何だか偉そうに答える。
 でも、偉そうにされる意味がわからない。

「あ、私が呼んだの。だって、男の子が諏訪君だけじゃ可愛相でしょ?」

 横にいた友紀がシレっと言う。
 その手には携帯が握られていた。

「諏訪君、紹介するわね。彼、小池 秀二くん。桃の幼馴染で私達のクラスメートなの。とても気さくな性格だから、あまり構えなくても大丈夫よ」
「そーそー。フレンドリーさが俺の1番の売りだから!」

 息のあったコンビネーションで会話しているけど、そんなこと言われたって突然なのだ。
 いくらなんでも諏訪君だって困惑する。

「そんなこと言われたって、諏訪君からしたら先輩に囲まれるんだから緊張するよ。突然、ごめんね諏訪君」
「あ・・・いいえ」


 控えめな言葉。
 今だからこそわかるけど、諏訪君はわりと人見知りが激しい。

 表にこそ出さないだけで、幾重にも擬似体のような殻の中にいる。

 もちろんそう感じただけで、本当の意味では確証はない。
 でも、なんとなくそう感じてしまったのだ・・・。





 私が心配する中、諏訪君は違和感を感じさせずに溶け込んだ。

 控えめながらも、ちゃんと適度に会話に入り。
 あの透明さを感じさせるような笑みを浮かべる。

 そして、友紀に気づかれないタイミングで、諏訪君は友紀だけを見つめた。

 それで私は確信してしまったのだ。

 諏訪君は友紀に興味がある。
 恋愛対象として気になっているんだと・・・・・・。

 友紀と秀ちゃんばかりが話していたので、私はその様子を観察出来た。

 友紀の好みはすごく厳しそうだけど、諏訪君が友紀を好きになったのなら応援したい。
 諏訪君が人を好きになれば、もっと彼は擬態の殻を破るはず。

 もっと、人らしくなるだろう・・・。

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