天使の林檎
 その日の放課後、部活が始まり、いつものように諏訪君と向き合うような形で座る。

 私はキャンバスに向かって出品予定の作品の制作に取り掛かり、諏訪君は鉛筆でデッサンの練習をしていた。

 デッサンの練習は物事を的確に捉える練習にいい。
 そして自分がそれをどう見ているか確認することも出来る。
 いろんな利点があるのだ。

 諏訪君は偶然画材屋さんで会った時に買っていたスケッチブックで練習をしている。

 私は諏訪君のシュッ、シュッ!と鉛筆を滑らせる音がどうしても気になって、自分が集中出来ていないことに気づいた。

 最近、私は集中出来ないことが多い。

 いまいち集中出来ないことで絵を描くのを諦め、カタリと筆を置き、つけていたエプロンのリボンを外す。
 そんな私に気づいたのか、諏訪君が顔を上げた。

「堀口先輩? どうしたんですか?」
「うん・・・。ちょっと集中出来ないから気分転換してくるよ」
「気分転換ですか?」
「ん。出来るだけ早く戻ってくるつもりだけど、わからない事があったら浜口先生に聞いてくれる?」
「はい・・・」

 絵はそのままに、私は諏訪君に断わって、美術室を出た。
 一応、私がいなくても、完成していない私の絵を見るのを諏訪君に禁止している。
 絵にカバーをかけられればいいんだけど、乾いていない油絵の具では仕方ない。

 彼は真面目だからその言いつけはキチンと守るだろう。

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