天使の林檎
 雨の日では、気分転換したくても学校の中では場所はしれている。
 自分の教室に行ってみたが、誰もいない静まった教室は昼間の熱を感じさせた。

 私はなんとなしに昇降口に向かい、靴に履き替えると自分の傘を掴んだ。

 傘はポンっと音を立てて開く。

 私はリンゴが大好きなせいか、持っているものはリンゴ柄のものが多い。
 でも、傘だけは水玉柄だった。

 昇降口から外に出て、傘を見上げる。

 透明な地に水色の丸。
 水玉の間から、どんよりと暗い雲が見えた。

 私は誰も練習していないグラウンドの真ん中に進む。

 普段なら野球部が使っているが、今日は雨だ。
 まるで私がグランドを独り占めしているような気がした。

 風が私の長い髪をなぶる。
 私は目を閉じ、パタパタと雨が傘にぶつかる音に耳をすます。

 人の声が聞こえないわけじゃないけど、私の視界の範囲に人はいない。

 1人でいるのは嫌いじゃない。
 でも、1人でいるのは寂しいから好きじゃない。

 私は楽しいのが大好きだし、人間が好きだ。

 ふと、智のことを思い出した。

 智が私のことを本当はどう思っていたのか、私にはわからない。

 でも、友紀も秀ちゃんも私の側にいて気を使ってくれる。
 失った分より、得たものの方がずっと大きいと思う。

 今の私は1人を楽しむぐらいは幸せなのだ。

 2年になってから色んなことがあったせいか、私の絵が変わってきた。

 見方とか価値観とかが変わると、絵も変わる。
 でも、それに対処出来ない。

 いつものように描いているはずなのに、絵が違う。
 そんな違和感に心がついていかなくて、私はすぐに集中力を切らしてしまった。

 まあ、ありていに言えばスランプなんだろう。

 初めてのスランプじゃないので、意外と冷静に分析できた。

 私はこの短い時間の中で変わっているのだ。
 心も体も・・・・・・。

 だから絵も変わる。

 私は雨のグランドの真ん中で、自分の変化を受け入れた・・・・・・。

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