天使の林檎
 私はポケットからハンカチを出して、毛先を拭く。
 もちろん、ハンカチの柄はリンゴ。

 名前は桃なのに、1番好きな食べ物はリンゴなの。

「でも、よくここにいるのがわかったね」
「美術室の窓からグラウンドにいた堀口先輩が見えました」
「あ、そうか。今座っている場所、窓の側だもんね」
「はい」

 毛先をハンカチで拭きながら、諏訪君と並んで歩き出した。
 ふと、そこで昼の時を思いだす。

 辺りに人がいないことを確認して、思い切って聞いてみることにした。

「ね、嫌だったら答えなくていいから、聞いていいかな?」
「はい、何でしょうか?」
「・・・もしかして、友紀の事、気になってる?」
「っ!」

 私の言葉に、諏訪君がすごく驚く。
 そして次の瞬間、赤くなった。

「・・・はい。堀口先輩の友達だなんて思わなかったですが、松川先輩のことはずいぶんと前から知っていたんです」
「そうなの?」
「松川先輩とは部活に入る前、下校中に会ったんです」

 諏訪君が立ち止まったので、私も止まる。

「あの時は入学したばかりで、その・・・何人かの女子が僕と一緒に帰ろうと揉めてしまって・・・。そんな時、1人で帰る松川先輩を見かけたんです」

 友紀が1人で帰っていたのは、私が智と別れてから部活に出ている時だ。
 諏訪君は仮入部期間の最初から部活に来ていたのでいつかは限られる。

「松川先輩はすぐ、1人の男子に一緒に帰ろうと誘われました。でも、知らない人とは一緒に帰らないと断わったんです。相手の男子は諦めきれなかったみたいでそれでも誘ってたんですが、松川先輩はそれからは何を言われてもごめんなさいの一言だけで、結局相手の男子は諦めたんです」

 それを聞いて思い出した。
 朝、すごく機嫌の悪い日があった。

 きっとあの日の前の事だ。

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