天使の林檎
 彼女達はしばらく友紀と話して、今日の帰りを誘ってきた。
 でも友紀はすっぱりと断わったのだ。

「私、彼女と一緒に帰る約束してるし」
「そ、そうなの?」

 いつの間にか、約束したことになっていて、彼女達に冷たい視線で睨まれた。
 否定しようと思って慌てて口を開きかけたら、今度は友紀に足を蹴られた。

「ごめんなさい」

 全然目が笑ってない笑顔を友紀は彼女達に向ける。
 美人なだけにすごい怖い!

 それなのに彼女達は気づいていないようだった。

「ううん、いいよ。今度一緒に帰ろうね!」

 そう言って彼女達は離れて行ったけど、友紀から鼻で笑う音がした。

「ゆ、友紀?」
「いっつもこんな感じなの。私の見た目で興味を持っているだけ。私にも人格があるのに、中身を知ると批判するんだよ。いやんなっちゃう。・・・桃、こんな私を見て嫌だったら友達、撤回してもいいよ?」

 不安げな表情を浮かべながら、友紀は私に逃げ道を提示してるけど、実際はここで断わる人はいないと思う。
 まあ、私は猫かぶりしている友紀より、こっちの友紀の方が好みだけどね。

「美人なだけの友紀より、毒舌の友紀の方が好みだから、大丈夫」

 そう言うと、友紀はほっとしたような嬉しそうな笑顔を浮かべた。
 そんな表情が美人って言うより、可愛く見える。

 その後すぐに担任が来て話は打ち切られ、細かな説明の後、体育館へ移動した。

 出席番号が1つ違いだから、何をするにも友紀と一緒。
 始業式が終わってクラスに戻ってきても、友紀との会話は弾んだ。

 そしてホームルームが終わって帰る支度を始めた。

「あ、あのね。今朝、一緒に帰るって話になってたけど、私、彼氏がいて、彼と帰る約束をしてるの」

 言いずらかったけど、きちんと言うと、友紀はまた笑った。

「あの時は彼女達と一緒に帰りたくないからああ言っただけ。気にしないで、適当に歩いていればいつも誰かに声をかけられるし」
「・・・そ、そう?」
「でも、一緒に帰れる時があったら一緒に帰ろうね?」
「うん」

 きっとモテるから1人でいると色んな人に話し掛けられるんだろう。
 ある意味、すごいよね。

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