月の雫[七福神大戦録]
――休み時間。
御堂君とお弁当を食べようと、席を立とうとした私の腕を、大黒天が掴んだ。
「放課後は、空けておいてくれ」
え!?
よりによって……今日なの??
「それってさ……今日じゃなきゃ駄目なの?」
予想通りの、答えだったんだろう。
呆れたように溜め息をつき、腕を組んだ。
(お前、わかってるんだろうな?お前がやるべき事。俺達の目的を)
「勿論わかってるよ!わかってるけど……それとこれとは違うの!」
「どう違うんだよ?現に、お前は何一つこなせてないじゃないか。少しは優先順位を考えろ」
気がつくと、クラスのみんなが私達を見ていた。
「誤解されるような、言い方はやめて」
(……もし、月の雫が奴らの手に渡れば、世界がどうなるか。お前にだってわかっているはずだ。代償が大きすぎる。御堂とは別れるんだな)
私は、教室を飛び出した。
悔しさとか、不甲斐なさとかで、涙が止まらなくて。
気付いたら中庭まで来ていた。
――わかってるんだ。
あいつが正しい事も。本当は。
非現実的な日常の中で、それを忘れさせてくれる、唯一の至福の時間に、ただ、私はすがっているだけかもしれない。
だけど、御堂君だけは。
手放したくなかった。
彼と居る時だけは、普通の女の子になれる気がしたんだ。