月の雫[七福神大戦録]
良かった……
大黒天、助かったんだ。
「あれは、お前の差し金か?」
目線の先には、弁財天が横たわっている。
「貴様……弁財天に何を!!」
「心配するな。気を失っているだけだ」
見上げると、寿老人が一瞬、悲しげな顔をしたように感じた。
でも、再び表情が戻ると、私を思いきり突き飛ばし、私の身体を大黒天が受け止めた。
「命拾をしたようだな。次はないと思え」
そう言い放つと、意識がない弁財天を抱え、闇の中に消えて行った。
緊張から解き放たれ、冷えた身体を抱き締めるように腕を両手でさする。
鈍い痛みと共に、赤紫色のアザが手首に刻み込まれていて、私は思わず指で触れた。
「ところで、何でこんな所にいる!寄り道なんかしてるから、こんな事に巻き込まれるんだ!」
「何よ!そもそも、あんたのせいでしょ!?あんたが弁財天と……!!」
言葉が詰まってしまった。
凄く仲が良さそうな、2人の姿を思い出してしまったから。
「……お前、大丈夫か?」
「あんたが、行っちゃうんじゃないかって……。あんたがいないと困るの!だって……みんなだって心配するし、それに、月の雫だって……まだ……」
不意に、私の頭に、優しく大きな手の温もりを感じて。
その瞬間、私は俯いてしまう。
「すまなかった。お前のお陰で、俺はここにいるんだよな。だから……泣くな」
言われてはじめて気が付いた。頬が濡れている事に。