━Holic━
『お前、橘さんの恩人の娘だかなんだか知んねぇけど調子乗ってんじゃねーぞ!!』
『痛っ…離してよ!』
『今まで我慢してやってたけど、こっちだって限界だっつの!我が儘ばっかり…お前何様のつもり?!親の金と力がなきゃ、なんにもできねぇクセに…俺たちみたいな男にしか、相手にされないクセに!!』
『っ…!』
そう吐かれたとき、全身の血が逆流しそうだった。
親の金と力…。
俺たちみたいな男にしか…
ちがう…そんなことない。親なんていらないもの。あんな母親なんかいなくたって、あたしはなんでもできる。相手にしてくれる男だっている。最愛の彼氏だって…あたしには…!
『なによ…そっちだってあたしのお金目当てなクセに…。お金欲しさに色恋しかできないクセに、えらそうなこと言ってんじゃねぇよ!!』
叫ぶと同時に思いきり手を振り払う。
財布にも入れず、カバンの底に押し込んでいた万札を数枚取り出し、相手に投げつけるとホテルを飛び出した。
大勢の人ごみに紛れ、足早に歩く。
なんなのよ、あいつ…むかつく。明日にでも橘に言いつけて、速攻辞めさせてやるんだから…。
結局はお金目当ての下手な演技のクセに。
〝お金が全てじゃない〟
こんなこと言うやつがいるけど、それはまちがってる。
世の中お金が全て。
食べ物を買うのも、服を買うのも、水も電気も。今の生活はお金なしじゃ成り立たないじゃない。
お金こそ全てだ。
だからあたしの母親は、使い物にならなくなったあたしを見捨てた。お金を稼げなくなり利用価値のなくなったあたしを、簡単に捨てた。