━Holic━
その後もミケを好きなだけいじり、司はどこかへいってしまった。
「ゔー…俺、あの人苦手…」
さっき司にわしゃわしゃと撫でられたせいで、ぐしゃぐしゃになった髪を手櫛で直しながら、司が去っていった方向へ恨めしげな目を向ける。
左手には返してもらったネックレス。
「あれ…なぁミケ?お前さっきここでラッピングほどいた?」
「へ?あぁ、そうっすけど」
俺の突拍子のない質問に、ミケはきょとんとした顔をする。
まったく、今中身を確認するなんて…。
「だめだろ、お前。そんなんじゃ売れねーよ?貰ったらその場で中身確認して、大げさに喜んだ方が客は満足すんだよ」
例えその品を気に入らなくても、だ。
どこまで上手く演じられるかだよ。満足させて喜ばせたやつが勝つ。そこに、感情なんてものはいらない。
「へぇー…なんか意外っすね」
ミケのいつも眠そうな、ぼけっとした目が丸くなる。
「なにが?」
「シイヤさんの口からそんな言葉が出てくるなんて、ちょっと意外だなーって」
「そか?」
「はい。シイヤさん…なんでホストやってるんすか?」
「はぁ?なんなの急に」
まるで、俺の本心を見極めようとしているように細められた瞳。
なんとか取り繕おうと、苦笑してみる。
「シイヤさんて、正直あんま金にも女にも執着してなさそうに見えるんすよー。司さんとは真逆ってか。だから、なのになんでホストやってんのかなー…ってたまに思うんすよね、俺」
ドキリ、跳ねる心臓。
雑誌をぱらぱら捲っていた指の動きも自然と止まる。
怖いと感じてしまった。こいつを、怖いと感じてしまった。どんなに上手く隠したって、本心全てを見透かされそうで…。
でも、確かにそうなのかもしれない。ミケの言うとおり。
俺、なんでこんな世界にいるんだろ…?