━Holic━
「ちょっと、いきなりなにすんの!」
「俺は全然平気じゃないよ…」
振り返り抵抗しようとしたら、耳のすぐそばで聞こえてきた切ない声。思わず振り返るタイミングを逃してしまう。
「妃憂がいないとすげぇ不安になる」
シイヤが甘えるようにわたしの首筋に顔を埋める。
切なげな呟きと、頬に触れるサラサラの髪がくすぐったい。
「仕事中もずっと気になってた。会いたくて仕方なかったんだから…」
〝会いたかった〟こう言われたら普通は嬉しいはずなのに、喜んでいいはずなのに、わたしは全く別の感情に襲われる。
否定したくなるの。彼の発言全てを。そんなのうそだ!って、大声で叫んで全身で否定したくなってしまう。
だって、シイヤが本当に会いたいと望んでいるのはわたしじゃないよ。
わたしと同じ容姿を持つ…あの子なんでしょう?
「…そんなことどうでもいいわ。この腕離してよ」
わたしは彼に向き直り、思いきり嫌そうな顔をしてやる。
あっ。こっち向いてくれた。なんて笑うこいつをめちゃくちゃ憎たらしく思う。
「うで離せばか」
「やだ。いいじゃん。妃憂の腰ね、ちょうどいい位置にあんの。…抱き枕として」
「なっ…人を枕扱いしないでよ!100均でも行けばいいじゃんかっ」
「えーめんどいし。それに、妃憂だって俺がこうしなきゃ寝れないだろ?」
「…はぁ?わたしがいつそんな気持ち悪いこと言ったっていうの?!さっさと離せこのやろー」
「うぁ!ちょ、おいっ…暴れんなって…!」
抱き枕扱いするなんて…!
なにを言い出すんだこいつは。本気で頭にきた。逃れようと必死に体を捩る。すると、抱き締めていた腕にさらに力が込められた。