━Holic━
『ねぇ妃憂。今日はコート交換しない?』
『えっなんで?』
『…だって妃憂、いつもその白いコートばっかじゃん。たまにはあたしの黒も着てみなよ?ねっ』
―――あの子と過ごした最後の朝の会話。
あの子が一番好きな色は黒。白はわたしが一番好きな色。妃紗は…絶対白のコートなんか着なかったのに、あの朝に限って交換しようなんて言い出したんだ。
気づいてたんだろうか。
妃紗は、自分に待ち受ける運命に気づいていたの?だからあの朝、白が着たいなんて言い出したの?
だって、妃紗はその日の夜……
「っ…ごめ…っめんね、妃紗…」
薄紫の朝焼けが照らす部屋。
眠るシイヤの隣で、息を殺し真っ白なシーツの海へ顔を埋める。
わたしの頬に、涙が一粒だけ零れ落ち、消えた。
【薄紫の朝に包まれる部屋】
((もう、新たな今日なんていらない))
((その願いが叶うことはなく、優しい朝日が世界を照らす。また、始まりを告げるために…))