遠恋
「……勇人が別れたいなら別れる」

諦めにも似た声だった。
もう、別れが決まっていると認めているような声に、僕は苦く笑ってしまった。

「んなこと言ってないだろ」

「遠距離だよ?いいの?」

「まあ、今時よくあるしな」

だから別れるなんて言うなよ、苦笑いをしながら呟く僕に、美咲は涙を零す。
堪えていた分、涙はたくさん零れていた。
指先でそっと涙をぬぐってやると、美咲はぎゅっと抱き着いてきた。
別れるわけではないのに、僕の胸のあたしは美咲の涙で冷たくなってくる。

ボタンを閉めておけばよかったな。

でも、まだしばらくはいい。
せめて美咲の涙が止まるまでは、コートのボタンなんて閉めなくても、いい。
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