遠恋
どのくらい経っただろうか。
少なくとも、自販機で買ったコーヒーが温くなるまで、美咲は僕に抱き着いていた。
腕を背中に回すことはしない。
別れが惜しくなれば、離れたくなくなるのは僕だって同じだ。

「……ゆーと」

美咲がやっと顔をあげた。

化粧をする人を好まない僕に合わせてか、美咲はいつもすっぴん同然だ。
綺麗な美咲の顔に首のあたりが熱くなった。

ひゅるり、風がその熱を奪っていく。
美咲が顔を埋めていた胸のあたりは濡れているため、風がいつもより冷たく感じた。
なに?返事をしながらボタンを閉める。

「……なんでもない」

美咲が、拗ねたときに普段よりも早く瞬きをするのに、気付いているのはきっと僕だけ。
他の誰も気付かなくていい。

「拗ねんなって」

「…別に、拗ねてないもん」

「はいはい」

そう言って、僕は美咲にキスをした。
一瞬驚いた顔を見せるが、素直に体を委ねてくる美咲は、いつもより可愛い。
言ってやったことは1度もないけれど。
< 3 / 12 >

この作品をシェア

pagetop