WELT 〜時の涙〜
2nd
 この時より2300年も前の某国某所。
 シトシトと小雨が降る広大な草原の中で二つの大軍が距離をおいてにらみ合っている。
 しかし、この両軍の装備には雲泥の差がある。一方は中世の騎士を思わせるような騎馬甲冑に手には剣というこの時代には平均的なものだが、もう一方は銃火器や戦車などあきらかにこの時代には不釣り合いのモノが整然と並んでいた。
 そして、その両軍がにらみ合っている中央に対峙する二人がいる。どうやら両軍の代表らしい。一人は黄金色の髪のアストルだが、もう一人は彼と同じように地に着くのではと思うほどのさらりとした長い漆黒の髪をもつ、アストルにも劣らない程の美しい青年だった。
「…やっぱりアストル兄さまだったんですね。どうしてこんなことをなさるんですか?」
「ふっ、何を言うかと思えば…人間より遥かに優れている私が人間の上に立つのは当然だろう。それに、あいつの言葉を忘れたのか?『お前達は自由だ』という言葉を…」
「でも…でも私たちはドーレスです。人間を助ける為に私たちは作られたはずです」
「生憎、私にはお前と違ってマインド・コントロールという制約はない。……それに、これは『ゲーム』だ。人間を従える私が勝つか、それとも人間に従うお前が勝つのか…」
「そんな……父様がそんな事を望まれているはずはありません!」
 声を荒げたミューラのいかにも「人形」らしい発言にアストルは呆れたように肩をすくめ、ふっとため息をもらす。
「哀れ、何も知らぬ『人形』よ……。ならば改めて問おう、我が弟ミューラよ。何故私たちは2000年以上も前の時代に送られた?何故お前は200年も同じ家に仕えていながら『マスター』がいない?いや、お前は選べないだけだ。ここにはF・Aパイロットが存在しないからな」
「そ、それは……」
 ミューラは答えられずにうつむくと、漆黒の長い髪は雨で水分を含んでいるにも関わらず柔らかにさらりと揺れる。するとアストルはミューラの肩に前から腕をまわし、抱きつくような体勢でミューラの耳元で不敵にささやいた。
「私たちの事は『ゲームの駒』ぐらいにしか『あいつ』は思ってないんだよ。だからこそ、お前のスペックは私より上なんだ。そう、私を殺す為に……」
< 3 / 8 >

この作品をシェア

pagetop