WELT 〜時の涙〜
 そして剣を持たない左手で彼を突き飛ばす。しかしすぐに体勢を立て直したルークは渾身の力を込めて剣を振り下ろすも、アストルは何事もないかのように片手で受け止める。ギリギリと歯を食いしばる音が聞こえてきそうなルークに対して狂気の笑みを絶やさないアストル。誰が見てもその差は歴然だった。
 アストルは一瞬、力を抜いてすぐに跳ね上げるように剣を払うと、バランスを崩したルークは尻餅をついて倒れ込む。
「……つまらん。腕は悪くないが私の暇つぶしにすらならん」
 そういうとアストルは光剣をルークの左肩に突き刺す。
 短い男の呻き声と肉の焼ける匂い。光剣で貫かれた肩からは血は出ていないものの激痛が走り、思わずルークは肩をおさえる。そして内心で死を覚悟しながらもそれを悟られまいと黄金色の悪魔を睨みつけるが、アストルはその視線すらも心地いいというような狂気の表情でゆっくりと光剣を振り上げる。そして、これで終わりだ、と短く告げ、高く上げた手を振り下ろす。
「マスター!!」
 悲鳴のような叫び声を上げながらミューラが倒れ込んだままのルークの上に覆い被るような体勢で飛び込んでくる。
 けふっ、と短く息を吐くと少し苦しそうな表情でルークを見詰める。
「お…お怪我はありませんか?『マスター』…」
 一瞬の出来事に状況を把握しきれていないながらも己の無事を伝えると、ミューラはよかった、と幼子のような笑みを主に見せた。
 予想外の出来事に呆然としていたアストルだったが、我に返ると光剣のスイッチを切り崩れ落ちる弟を慌てて抱き起こす。
「ミューラ、お前…マインド・コントロールを……」
「…わかりません。私はただ…マスターを、ルーク様をお守りしたかっただけです……どうやら…ゲ、ゲームは…兄さまの勝ちですね……」
 苦しげな息づかいとは裏腹に、草原と同じ色の瞳はどこか満足そうだ。
 そして、傍らに膝をつくルークの方を見てすまなそうに見詰める。
「マスター…、どうか兄さまを…アストル兄さまを責めないで下さい……」
 兄は悪くないのだ、と弱々しく告げ、ルークが分かったと答えると苦しげな笑顔で礼を告げる。そして再び兄の方を見るとかすれ行く声で最期のわがままだと、願い事を一つ告げた。
< 6 / 8 >

この作品をシェア

pagetop