透明図
イッパイアッテナはしきりに首をふった。

「じゃあ、あんた本当はなんて名前なのよ。」

「いや、だから、まぁいろいろあるんだよ。」

「じゃああんた、しゃべるネコだから、ミカンって名前はどう?かわいいでしょ」

「なんでミカンなんだい、いいよ、名前なんて、ノラで」

ノラはちょっと照れ臭そうに話を切った。私に名前を付けられるのがいやだったのだろう。

ノラなんて普通すぎてつまらないよと言ったが、ノラはとりあわなかった。

そしてどうにかこうにか名前が付いたところで私たちはまた歩き出した。

ノラはカゴに乗り、私はそれを押して。

しばらくお互いに黙りながら歩いていたが、唐突にノラがしゃべった。

「じゃあお前は…、サバを食べさせてくれるからサバ子だな。」

私は、その日何度驚いただろうか。それでも心臓が止まるくらいに驚いたのは、それが初めてだった。
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