透明図
私たちは小さなスーパーで、新鮮なサバの切り身を一切れ買って先ほどの公園に戻った。

太陽の隠れてしまった空は薄紫色に輝き、絶景とは言えないまでも、そこそこの美しい表情をさらしてくれた。

やっぱり東京の夕空は、サキの心みたいに綺麗には輝かないな。

私がふとそんな事を考えてるとノラは待ちきれないようにミャーと高く甘えた声で鳴いた。

私は夕空とサキとの比べっこを中断して、サバの切り身をパックから取り出してあげた。

ノラはサバを一舐めすると歓喜の声をあげる。

「くぅぅ、生のサバを食べれるなんて何年ぶりだろぅ。」

さっきまで少年ぽく見えたノラが少し親父っぽくみえたが、こんなに喜んでもらえたのは久々なので私は思わず顔をほころばせてしまった。

「ノラァ、ちゃんと残さず食べなよ」

おいしそうに食べてくれるノラの表情は、すでに一面を雲に覆われた今日の夕闇のそれと綺麗に対照をなしてくれた。
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