透明図
結局その日は、私が渋谷で二人にお茶をごちそうした。

サキは最初、仕方ないよと言って断ってくれたけど、最終的にはとてもおいしそうに飲んでいた。

「仕方ないけど美味しいね。」

甘めのキャラメルマキアートに顔をほころばせながらサキが言ったセリフは、ちょっとだけおもしろくて私を現実に引き戻してくれた。

それでも、やっぱり私の頭の中は、藤橋ユウヤのことでいっぱいだった。

いつもならかわいく見えるアクセサリーや洋服も、その日ばかりはなんだか派手すぎて誰にも似合わない気がして不思議だった。

サキに藤橋ユウヤの話をしたほうがいいのかな?

私はふとそう思ったけど、それはしないほうがいい気がした。

今ここで話したらミヤまで巻き込んでしまうし、サキにしたって知らなくていいことをあえて知る必要はないと思う。

何よりも藤橋ユウヤが見せた悲しげな瞳が、私に何も言わないでほしいと訴えかけているようで私の口を塞いでしまった。

その日一日私の頭はずっともやもやとしたままだった。

明日は、明後日はどんな日になるのかな。

私はぼんやりそんなことを考えながら帰りの電車に揺られた。

明日もう一度藤橋ユウヤと話をしてみよう。

すべてはそこからだ。

車窓の奥には、きらびやかに映る街明かりと、無数に現れる夢みがちな心の設計図がかすかに黒ずみながら輝いている。

私たちを乗せた電車は、やがて私のよくなじんだ、あの見慣れた街へと吸い込まれ、無数の疲れた夢達を連れて、せかされるようにまたどこか遠くにいざなわれていった。

夢は、いったいどこに向かうのだろう。私は、制服のエリを直して、家路についた。
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