透明図
途中、サバの切り身を一枚買った。

買いながら、もしノラに会えなかったらと不安になったけれど、また明日があるしねと軽く自分をはげました。

かける自転車は、なおスピードを乗せて、あの公園に向かう。

向かう途中に、一羽、二羽、鳩の亡きがらを通り過ぎる。

私は静かに目を伏せる。

いつか、私が…。

私は、何を思うでもなく何かを思った。

公園にたどり着いた私の胸の鼓動が、やけに高鳴ってしまったのは、ノラに会えることを期待してだろうか、それとも得体の知れない恐怖を感じ取ったからだろうか。

相変わらず私は明確な答えを持たないままだった。

たどり着いた公園に急ぎ足で自転車を止める。

少し手狭な公園には、遠くに二、三の恋人達と、小さな鳩の群れがあった。

ノラは…。

ノラはいた。

ノラは芝生の上で眠たげにあくびをかきながら、相変わらず鳩を眺めていた。

ノラの真っ白な体は、一面の緑によく似合っていた。

あれは間違いない、ノラ。

私は、うれしさがこみあげてしまった。

そして、意識することなくノラの心の設計図に目をみやった。

新鮮なサバのようなそれは、相変わらず青白い光沢を放っていた。

あは、そっか、そういやこんな猫だったなぁ。

私は、スーパーの袋に手をやった。

ノラは私をみつけて、なお眠たそうにミャーと一声鳴いた。

その声に驚いてか、一羽、二羽、鳩がゆるい日差しを受けて飛び立った。

風が静かにそよぎ、草花は緑に薫る。

その光景は、言いようのない幸福に溢れていた。

私は、ここにきたことを素直に喜んだ。
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