透明図
ベンチに腰掛け、私はノラを抱く。

ノラは今日の陽気にのんきな鳴き声で答える。

私がのどをなでると、ごろごろとのどを鳴らす。

二日でずいぶんと馴染んじゃったなぁ。

そうだ、私はノラに聞かなきゃいけないことがあったんだ。

「ねぇ、ノラさぁ…」

私が上から包み込むように話し掛けると、ノラは珍しく顔をあげ、私ではなく正面をじっと見据えて姿勢をのばした。

ノラの表情は、少し緊張して固くなっていた。

それは私がはじめて見た、ノラの野良猫らしい一面だった。

ノラは何に怯えているのだろう。

ノラの視界の先には、藤橋ユウヤがいた。

藤橋ユウヤが、あの頃と同じように真っ暗な心と、機械のような瞳で、私とノラを見据えていた。
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