透明図
朝顔が咲き始める季節に、そして季節が終わりをつげるころ、私はきっと待っている。

私は、何を待つのだろう。
誰かを?

誰…、お母さん?

それとも、サキ?

答えは思うようには出てこない。

でもたぶん、私が待つとしたら、それは…。

私は夢の中の懐かしい感触にうずまりながら、私のこれからの未来を予感する。
きっと、朝が目覚める頃に私はいろいろと忘れてしまうのだけど。

でも、まだ消し去らないでね。この記憶を。

あの霧の向こうを、ちょっとでもこの目に見せてくれないかな。

景色、匂い、何か、存在めいたもの、存在していないもの。

私は、私の透明図を通して薄明かりにともされた霧の向こうを感じる。

そして届かないはずの手を伸ばす。

伸ばした手は、何もつかむことなく、かがりびのような霧のなかで空を切る。

そして、唐突に目覚めの予兆を感じ、意識は確かな朝日の感触を知る。

私はまるで天女の羽衣を着せられたみたいに、夢の中のすべてを忘れる。

目覚めは、私の期待に反して、まどろむヒマもないくらいに、いやにはっきりと朝の到来を告げる。

体は、全身がじっとりと汗ばんでいて、けだるい。

私は、一体何を忘れたのだろうか。

いろいろなことをこの一瞬の内に忘れてしまった気がする。

それは、大切なことだったのだろうか。

私が覚えていること。

来週のテストのこと、サキのこと、学校帰りにノラに会いに行こうかなと思っていたこと。

そうだ、今日はノラに会いに行くんだった!

よかった。私は大切なことのすべてを忘れてしまったわけではないみたいだ。
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