透明図
学校はいつものように、つつがなく終わってくれた。

特に代わり映えもなく、今日もサキは素敵で、藤橋君は楽しさを装って。

担任の高橋は相変わらずデタラメだったし、それに負けないくらいにユキの彼氏もデタラメだった。

でも一つだけ、確かに普段と違うなと思うことがあった。

今日ノラに会うんだという気持ちが、不思議なくらい私の心を喜ばせていたことだ。

世界が回り、昨日までとは違った表情を見せてくれる。

かすかではあるが、私の前で、世界が、キラキラと、鮮やかに、色づいた輝きを見せようとしている、そんな気がした。

私はあやうく、ときめくような胸の高まりを感じそうになった。

空気が香るのをひさしぶりに感じたように思えたし、体の芯の深いところで呼吸するような、なんにもかえがたい快ちよさに自然と身を任せられた。

最近ちょっと焦りすぎてたかな?

帰り道、一人になった私は回りを見渡した。

青く繁った深い緑が、心のままに光をかえすのに見とれてしまう。

奥行きをもった街の景色が確かな命の実感を私に教えてくれる。

歳月を刻んだマンションのシミの一つ一つにも、真夏のヒマワリのようなキラキラきらめく美しさを見つけることができる。

そして、優しい風の音の一音一音が意味をもって私の中まで染み込んでくる。

私は自分の手の平を、太陽にかざす。

陽射しの向こうにある太陽と、伏し目がちに目があった。

私は一つ大きな呼吸をする。

心は思いもかけずに豊かだった。
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