透明図
ザァザァと、雨のねが窓を打つ。

私は冷たく小さな窓に身を寄せながら、思うように進まないテキストのページを眺めていた。

私は顔を上げ、窓の向こうに視線を飛ばそうと、じっと視界を研ぎ澄ませているのに、どうにも見慣れた顔しか見えなくて、私はこの小さな試みをあきらめてしまおうかと思った。

ズズッと、ぬるくなってしまったミルクコーヒーの味を口一杯に広げ、なんとなく飲み下した。

机の上に、一欠けらコップの口の割れた破片が転がっていた。

ザァザァと、窓を打つ音は、渇いた部屋に心の静まる時間をもたらしてくれるが、この音に焦りとかイラダチを感じてしまう誰かもいるんだろうな。

ノラは今、そんな気持ちだろうか。

ううん、それはきっと私なんだろう。

読み掛けの雑誌が、ベットの上で乱雑に広がっていた。

私はそれに目をやる。

等身大の少女が、等身大の若者と恋に落ちる、そんな物語がはじまるらしい。

それはきっと素敵なお話しなんだろうなと思った。

そして私は何も考えないように、その記事を読み耽る。

こんなにかわいいアイドルが演じる等身大のお話なんだ。それはきっと素敵なお話しなんだろうと思った。

一通り時間がたったので私は寝てしまうことにした。

気持ちはなんだかくすぶっている。
< 72 / 83 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop