水中鉄道の夜2-終着駅-
◆各駅停車
 目覚ましもなく、決めた時間に起きられる俺は、いつもの時間に学校に行く。

 家から最寄の駅まではバスで、毎日同じ時間のバスと電車に乗る。

 乗る車両までいつもと同じなのは意識しているわけじゃない。
 ただ単に、何となくだ。

 車内に入って辺りを見回す。
 今日は土曜日で、昨日言っていた通り枝実サンは乗っていない。

 記憶の端にはあったけど、別に気にもしていなかった、俺と同じ時間の同じ車両に乗るお姉さん。

 昨日、偶然帰りに話し掛けられて、バイトを持ちかけられるまではどうでもいい人だった。

『ねえ、君、これから時間空いてない? 時間が空いているなら1時間千円で、簡単なバイトしない?』

 そんな言葉で話し掛けられた。

 もともと顔の造りは良かったので、人に声をかけられる事に慣れてたし、それこそ逆援助交際もどきの話までもちかけられたこともある。
 だから枝実サンが話し掛けてきた時は、またそんな感じなのかと思っていた。

 でも実際枝実サンは子供みたいに純真で、大恋愛に憧れて婚期を逃してきたちょっと天然の入った人だった。
 年齢からは信じられないほど童顔。

 行動も外見に見合っていると言おうか、俺より子供っぽいかもしれない。

 高校の時に憧れていた先輩としてみたかったデートとやらを付き合ってあげれば、映画はハリピタ。
 夕食は吉牛。

 極めつけはお手を繋いでただ歩くだけの公園での散歩。

 たったそれだけで、こっちが恥ずかしくなってしまいそうな笑みを浮かべて、すごく嬉しそうにお礼を言う枝実サン・・・。

 食べられなくて残してしまったご飯に向かって、手をあわせて謝罪する姿は、最初はかなりビックリしたけれど、今思えば、あの性格でなら納得出来てしまう行動のように思える。

 だいたい、今時ショタかどうか聞いて、ショタって何か聞いてくるとは思わなかった。
 27歳にもなって子供みたいで、温室に咲いた花のように世間を知らない女性(ひと)。

 俺は電車に揺られ、ドアにもたれながら外を見る。

 思い出そうと思えば、鮮明に枝実さんの笑顔を思い浮かべる事が出来た。

 ズボンのポケットには、昨日貰ってわざと返さなかった名刺が入っている。

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