水中鉄道の夜2-終着駅-
 飲み物を入れてもらったお礼に、俺がコーヒーカップを手早く洗い、籠に入れて戻って来ると、枝実さんは押入れから何かを引っ張り出していた。

「どうかしたんですか?」
「あ、トール君! ごめん、悪いんだけどこれ出したいんだけどうまく出せなくて、ここ、少し持ち上げてもらってもいい?」

 大きなタオル地のものを、挟まれている場所から無理に出そうとしている。

 俺はしゃがんでその手を止めると、すこし出ているそれをしっかりと持って、上を少し持ち上げて引きずり出した。

「ありがとう、ごめんね」
「もしかしてタオルケットですか?」
「うん」

 掴んでいたのは大きなタオルケット。
 俺の為に出したらしい。

 一応10月に入ったばかりとはいえ、段々と気温が下がっていることを考えてジャケットを買って来てあったけど、これなら充分くるまって寝られそうだ。

「じゃ、寝ようか?」
「あ、はい」

 俺がミニテーブルを片付けようかと思って立ち上がると、枝実さんはクッションを俺に渡した。

「トール君って寝相はいい方?」
「? ええまぁ・・・」
「じゃあ、私が壁側に寝るね」
「は?」

 自分のマクラを壁際に寄せてベットに上がると、壁側に座って俺を手招きする。

「いくらまだ温かいって言っても、下は冷えるでしょ。だから一緒に寝よ? あ、シングルなんだから狭いのは勘弁してね」
「・・・・・・」

 枝実さんの言葉に絶句する。

 いくらなんでも無防備にも程があるだろう。
 床は冷えるからと、健全な男子高校生と一緒にベットで寝ようと誘う人がどこにいるのかと枝実さんに聞いてみたい。

「どうしたの?」

 そんな事、全然判っていない顔で、枝実さんは不思議そうに首をかしげている。

 毎朝電車の中で見かけていたといえども、話すようになったのはまだ、3週間ぐらいで、しかも、一緒にいた時間をトータルしても、ほんの数時間って状態で、どうしてここまで相手を信じられるんだ。

 本当は襲って欲しいのだろうか?

「明日早く横浜に行くんでしょ? 早く寝ないと起きれないかもよ?」

 にっこり笑顔の枝実さんは、無邪気そのものに見える。

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