水中鉄道の夜2-終着駅-
 ふと目覚めて時計を見れば、まだ真夜中の3時ちょっと過ぎって時間だった。

 喉に渇きを覚え、枝実さんを起こさないようにベットから抜けると、キッチンに行ってコップに水を注ぐ。

 女とベットに入って、何もしなかったなどというのは初めての事だ。
 枝実さんは俺を信じていると言う。

 裏切られるという恐ろしさを知らないのだろうか?

 高い跳び箱を、落ちるかもしれない、失敗するかもしれないという恐怖を知らないヤツが軽々と飛び越えていくように。

 だが、枝実さんは27年間生きて、社会で立派にやっていっている。

 その恐怖を知ってもなお、躊躇わずに飛びこえていける強さがあると言うのだろうか?
 俺は飛ぶ前に躊躇してしまうし、飛び越える為のシュミレーションまでしてしまうと言うのに・・・・・・。

 真っ直ぐで純粋な枝実さんを、さっき俺は鏡のようだと思った。

 曇りもなく、反射して相手を映し出してしまう鏡。
 でも、それはガラスで出来たような脆いものではなく、もっと強い、ダイヤモンドで出来た鏡だからこそ、誰も傷つけることは出来なかったのかもしれない。

 俺なんかより、ずっとずっと強い心を持っている女性(ひと)・・・・・・。

 ふと、小さな備え付けの食器棚に大きな茶色いものが挟まっているのに気付く、少し引っ張りだしてそれがなんだかすぐに判った。

 枝実さんには悪いと思ったけれど、俺はそれを引き出して開く。
 中には真面目だけがとりえそうな男が映っていた。

 枝実さんのお見合い写真。

 ずっと大恋愛するのが夢だと言っていた枝実さんは、甘い言葉とは無縁そうなこの男とお見合いしようとしている。
 家族に泣きつかれ、それを受け入れてようとしている枝実さん・・・・・・。

 またもやもやした気持ちになってくる。

 この男では枝実さんを理解出来ない。
 こんな男じゃ、枝実さんは幸せにはなれないだろう。

 枝実さんを幸せに出来るのは――――――――――俺。

 俺が幸せにする。

 枝実さんは誰にも渡さない。
 俺は、枝実さんを好きなんだから・・・。

< 19 / 22 >

この作品をシェア

pagetop