水中鉄道の夜2-終着駅-
 朝食だけはいつも家族全員が揃って摂る。

 いくつかのレストランとホテルを経営している両親は夜遅くなるまで帰ってくることが出来ないから、朝食だけは家族全員で摂りたいらしい。

 兄弟には兄貴がいるけれど、年の離れた兄貴は両親について、すでに仕事ばかりの毎日を過ごしている。
 だから朝食後はいつもずっと1人だった。

 今日は日曜日で、いつもだったら適当な女の子に声をかけて遊んだりするのだが、今日はそんな気分にもなれず、1人、家で大人しく本を読むことに決めた。

 何冊か読み終わるとお腹が減ったので時計を見れば、とっくにお昼は過ぎている時間だ。

 俺はさっさと片付けて支度をし外に出る。

 電車に乗って秋葉原に出て、パソコンの顔馴染みのパーツ屋をめぐっていると、ふと、携帯ショップが目に入り、店に入って新製品の携帯を手にとった。
 俺はポケットから自分の携帯を出してしばらく考えたのち、新しい機種を購入する事に決めた。

 金には不自由していない。

 いつも忙しい両親は一緒にいられない罪悪感からか、何百万ってお金が俺の口座に振り込まれていて、その中から好きなように使っていいと言われているからだ。

「これ、ください」
「ありがとうございます。ご新規ですか?」
「いいえ、機種変で、あ、アドレスとかのメモリーは移さないでもらえますか?」
「かしこまりました」

 受付のお姉さんは少し戸惑ったようだったけど、サラリとそれを隠して営業スマイルを浮かべた。

 手続きをしてしばらくした後、新しい機種の携帯は俺の手の中にあった。

 アドレスは何も入っていない。
 何となく、少しもやもやした気分が晴れる。

 本当は新規で入会しなおして、番号も新しいものに変えたかったんだけど、それだと手続きが色々と面倒だったので、とりあえずこれで満足する事にした。

 秋葉原で新しく買ってきたパーツをパソコンに組みなおし、稼動状況に問題がないかチェックだけして、俺は初めて携帯の電源を切って寝ることにした。

 その日はとても静かで、いつも聞こえるメールの着信音や、呼び出し音もなく眠る事が出来た・・・。

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