靴ひも〜Mr.Children

君がこの手紙を読んでいる頃には、もう私は君とは会えなくなっているかもしれない。
それとも…いいえ、やっぱり無理ね。君は弱虫だし、私は強情で強がりだから。
だから多分、これが最初で最後の手紙になります。
君は、私と出会って人生変わった? それとも、私は君の人生で出会う何人もの人達の中の、ただの一人かな? 赤とか青とか、どこにでもある基本的な色ね。
でも私にとっての君は違う。
こんなこと言うと、きっと君を傷付けるかもしれない。怒らせるかもしれない。でも聞いてね。君は私の人生の中で、一度は失った人なの。…意味が判んないよね。
私はかつて、大切なひとを失くした。いつも二人、あの河原に座って景色を眺めた。私の絵を見て、「本物の景色なんかより何倍もいいよ」って言ってくれた。だけどもういないの。あの人は、私達がいるこの世界とは違う場所へと消えていった。
だけどある日、奇跡が起きたの! あの人が、河原にいた。私の絵を覗き込んで、ふたつの景色を見比べていた。
私、頭がおかしくなっちゃったんだと思ったの。だけど違う。それは君だった。
私は君が話しかけてくれるのを待った。だけど君は私からだんだん離れていった。また、失ってしまうかもしれない。恐くなって、私は君に話しかけた。
よく見ると、全然違うの。君と、あの人。話せば話すほど本当に違って、顔も仕草もまるで似てない。なんで最初、あんな風に思ったんだろうって不思議に思うぐらいだった。
でもやっと最近、判ったの。私にとって君は、あの人の代わりなんかじゃない、私は君と、出会うべくして出会ったんだって。
随分勝手な解釈かもしれない。でもね、本当にそう思うの。
だから私、決意した。前から行きたかったんだけど、なかなか決心できなかったフランスでの勉強をすることにしたの。
そして…君が一緒に来てくれれば何より嬉しいなって、そう思った。
君は、そこらで売ってるような色じゃない。いろんな絵の具を混ぜて混ぜて混ぜて…やっと出来る色なの。簡単に持ち出せるようなものじゃないのも判ってる。だけどいつも…いつも側にあって欲しい色なの。
無理だよね。何言ってるんだろう、私。君には君の人生があるし、君には君だけの色がある。
素敵な絵を描いてね。私はいつも、応援してるから。
短い間だったけれど楽しかった。本当に、ありがとう。


< 30 / 37 >

この作品をシェア

pagetop