500年の復讐

異端審問官




 バシャァァン!!

 水桶の冷たい水を横から顔に浴びさせられる。
「目が覚めたか、"魔女"」
 何かと思い目を開ける。目隠しも猿轡もされていない。

 石を積んだ狭い部屋に私はテーブルの椅子に座されていた。テーブルには蝋の垂れた蝋燭に光が灯されている。この部屋の光はこれだけだ。目の前に黒い服を着た男。傍らには黒い頭巾を被った男がいる。

 腕が痛い。椅子の背もたれに縄で縛ってある。足は椅子の脚に。すると目の前の男が口を開いた。
「私は法王より任命されし異端審問官、レイアス・バイヤーだ。お前の名は?」
 異端?私は異端なんてしていない。
 すると異端審問官は右手を小さく挙げた。頭巾を被った男が小さくうなずくと水桶の水を横から私の顔に掛ける。
「口を割れ。あと2回。」

 バシャァァン!!
 バシャァァン!!

 冷たい。寒さが体を刺すようにやってくる。髪から水が垂れる。
「もう1度聞く。お前の名は?」
「―――サーシャ・サユベル」
「では、サーシャ・サユベル。歳は?」
「―――35」
「子供がいたな。どうしてだ?」
「――――――」
 異端審問官がまた右手を挙げる。今度は正面から水を掛けられる。

「口を割れ。今度は水だけでは済まない。」
「―――婚約者がいて結婚して子供を儲けた。結婚した頃は誠実な優しい人だった。でもそのうち金と賭け事に憑かれて帰ってこなくなった。それからはあの子と暮らしてる。」

「ところで、『あの子』はどうなったと思う?」
 異端審問官が試すように聞いてきた。

 え?



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