500年の復讐

ある男の物語



 突然腹部に熱いものを感じた。何かと思い見てみるとワイシャツが茶色く染みになっている。
「――ご、ごめんなさいっ。あぁ、私ったら――――」
 そう言って私の元に駆けてきたのは一人の女性だった。黄色いボンネット帽が顔を隠していてよく見えない。とてもほっそりとしている。女性はカバンから白いレースのハンカチを取り出し、染みを拭こうとしている。
「―――そんないいですよ。今日はお客が多いんですから」
「そんな、遠慮しないで下さいな。早く拭き取らないと染みに―――」
 とても聞き取りやすい、きれいな声だ。
 それでも女性は染みを拭き取ろうと腕を伸ばす。
「いいですよ。また買えばいいんですから」
「でも―――」
 彼女は潮らしく顔を上げた。
「――ほんとごめんなさい」
「大丈夫ですから。そんなに謝らないで下さい。仕方ないですよ」
 目が合った。とても美しい人だった。少しフランスの血が入っているのだろうか。
 窓からの光で彼女を優しく照らし出す。輝く金髪のブロンドは黄色いパフスリーブのワンピースに映えている。




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