空のいろ
 笹木課長は、チラリと腕時計を確認した。
 私も自分の腕時計を見ると、もうすぐお昼休みが終わる時間だった。

「寂しいけど…」

 本当に、そう思ってますか?

「桜さんと話せて、楽しかった」

 そんなこと、言わないで下さい。
 泣きそうです。

「私も…楽しかったです」

 笹木課長は、笑顔で自分の右手を差し出した。

 私は戸惑い、笹木課長を見つめると彼は笑顔で頷いた。

 おずおずと出した私の手を笹木課長の手が握る。
 彼の手は、大きくてゴツゴツしていて、暖かかった。

 初めて触れた。
 最初で最後、初めて触れた彼の手。

「桜さんも、体に気をつけてがんばれよ」

 そう言うと、彼は屋上のドアを開け姿を消した。

 取り残された私は、その場にうずくまりただ呆然としていた。



 いつの間にか、音が戻っていた。
 蝉の鳴き声が戻ってきた。

 私の頭に蝉の鳴き声が響く。


 涙は、流れなかった。








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