空のいろ
ーーカチャ
ドアの開く音に振り向くと今年入社した武内くんが、怒り顔で歩いてくる。
「あ~、桜係長。こんなとこで油売ってたんですか。忙しいのに」
「あら、見つかっちゃった。よくここがわかったわね」
「な~に呑気なこと言ってるんですか」
「はいはい。戻るわ」
私が戻ろうとドアに手をかけた時、武内くんの声が聞こえた。
「一番星だ。桜係長、一番星ですよ」
まだ少し明るさの残る空に輝く星と、武内くんの脳天気な声で、心の中が明るくなった。
「忙しいんじゃなかった?」
「そうなんですけど、せっかくなんで、僕も気分転換してっていいですか?」
「私は戻るわね」
「え?」
素直に反応する武内くんが可愛くて、ついつい彼をからかってしまう。
「冗談よ。その代わり、早く仕事覚えてよ」
「は~い」
空の色が、淡いものから濃い色に変わっていく。
ここで星を眺めるのは、初めてだ。
武内くんが、笑いながら空に手を伸ばしている。
「あの星、手が届きそうですよ」
届く、の?
笑顔の彼を見ていると、届くような気がした。
空に輝く星。
昼に見る空とは違う輝き。
見上げて、私は現実に戻る。
「さぁ、そろそろ戻るわよ」
Fin